2000年8月7日
宇佐美 保
千葉すずさんは、アトランタオリンピックでは残念ながら不本意な成績に終わってしまいました。
又、残念な事にシドニーオリンピック水泳代表に漏れてしまいました。
そして、その不満をスポーツ仲裁裁判所(CAS)に訴え、敗訴しました。
マスコミは挙って、千葉すずさんを支持し、水連の古橋広之進氏を非難されていますが、私にはとても不思議に感じます。
先のアトランタオリンピックの際には、アトランタに行く前から、マスコミは、今とは逆に挙って千葉すずさんを非難されていたのではなかったのでしょうか?
私も、千葉すずさんがテレビに映るたびに彼女からとても嫌な印象を受けました。
彼女は周囲の(マスコミの)人達を馬鹿にしたような態度を取り続けていたとの記憶があります。
私の受けた印象が極端だったかもしれません。
しかし、彼女の態度は、“オリンピックで私がメダルを取るかどうかは、あくまでも私個人の問題であって、私は、オリンピックには楽しむ為に参加するのです。ですから、あなた方には関係ないことではありませんか!”と私には感じられました。
(オリンピックがすべて自費による個人参加なら、千葉すずさんの意見にも一理はありましょうが、少なくとも公費での派遣なのです。)
最近では、プロ野球といえども、選手達や或いは訳の判らない社会批評家は、野球をするのは、英語ではplay(プレイ)なんだから、楽しまなければいけない。
そして、この傾向は、スポーツに限らず、音楽等の演奏などにも言われています。
なにしろ、音楽の演奏も英語ではplayですから。
確かに、草野球や、家庭音楽会等ではplayはあくまでもplayであって、楽しむ事が至上命令でありましょう。
でも、プロの世界や、オリンピックで世界の競合と争う場合には、playは楽しむ事では、済まないでしょう。
このような舞台で、“playは楽しむ事”と言い切れるのは、世界の最高級の実力を有するほんの一握りの人達が口に出来る言葉でしょう。
先日のプロ野球のオールスター戦で、連敗中のパリーグの王監督は、“なんとしても勝ちに行く。”と語っていましたが、第2戦でロッテの小林(雅)という投手は、1イニング被安打9、失点7の不名誉な球宴新記録を作ってしまったりで、結局はパリーグはセリーグに対して8連敗してしまいました。
ところが、このとんでもない記録を打ち立てた小林(雅)投手は、「楽しんで頂けたんじゃないですか?お祭なんで真っすぐだけでいこうと思った」との語っていました。
とんでもない投手だと思いませんか?
オールスター戦に対しては、いつもは見られない選手同士の真剣勝負の対決をファンは渇望しているのではないでしょうか?
小林(雅)投手なんて、私は初めて聞いた名前ですし、その投手がどれほどの真っすぐを投げるのか知りません。
西武の松坂投手ならいざ知らず、小林投手の真っ直ぐ勝負など誰が楽しむのでしょう!
王監督の思い通りにパリーグが勝ってこそ盛り上がるのではないのですか?
勿論、小林投手の本心は、全力を尽くしてセの各打者に立ち向かったのに、打ち込まれて悔しさ一杯、恥ずかしさ一杯を、隠しての談話だったのかもしれませんが。
そして、千葉すずさんのアトランタ前の彼女の数々の不愉快な談話も、彼女の本心でなく、マスコミに追い回され、余りの苦しさに耐えかけての談話だったのかもしれません。
小林投手同様に真っ直ぐだけで勝負して打ち込まれた松坂投手は、「お祭気分で投げたのではないのに……」と語っています。
そして、その悔しさをバネにオールスター戦明けにはあわやノーヒットノーランの快投を見せてくれました。
やはり、超一流を目指す人は、たとえ言葉の中にもさえも逃げてはいけないのだと思います。
ですから、アトランタ前の千葉すずさんは、どんなにマスコミが悪かったにせよ、ご自身の発言には注意すべきだったのです。
一流、超一流になるには、何度も何度も辛い場面を乗り切らなくてはならないでしょう。
その時、どんな人でもその辛さから、適当な口実をつけて逃げたくなるものです。
そこで、マスコミに対して如何に本心ではなくても、“メダルなんていらない!”の類の発言をしてはいけないのです。
そのような発言は必ず悪魔の甘言の如くに “早くその辛さを放棄して逃げ出しなさい。” 耳元で囁かれてしまうのです。
そして、彼女の心無い発言が他の若い女子選手に対して悪影響を与えた事は、明々白々と存じます。
そして、その事を千葉すずさんは謙虚に反省すべきだったのです。
なのに、又、今回のオリンピック派遣選考会にて、同種の発言をされました、これでは、水連も彼女を派遣してアトランタの二の舞を踏む気を起こさなくなるのは当然でしょう。
ですから、彼女を選考しなかった水連の決定を立派だと私は思います。
それなのに、マスコミは挙って千葉すずさんを支持します。
マスコミは、アトランタ前後の千葉すずさんをもうお忘れなのですか?
それとも、マスコミはアトランタ時の千葉すずさんへの対応の罪滅ぼしの積もりなのでしょうか?
(又、マスコミは千葉すずさんが仲裁裁判所に訴えた事を立派と褒め称えますが、彼女のバックにカナダの方が付いておられた事情もあるからではないでしょうか?)
更に、不思議な事には、千葉すずさんは、今回の提訴を“後輩の選手の為に良かれと思って行った。”との類の発言をされていましたが、本当にそうでしょうか?
だとしたら、千葉すずさんを選考しない為に、他の女子選手(本来ならシドニーへ行けるはずだった昨年度の世界ランクの8位から16位の実力を発揮していた)への配慮は如何だったのですか?
如何なる事態に於いても、“罪は一方のみ” ということは無く、どちらも若干の罪を負っている筈です。
(どんなに、千葉すずさんが“自分は悪い点は無く、悪いのは日本水連”と思っていても。)
ですから、今回の千葉すずさんの件が絡んだ為に、シドニーへ行けなくなった方々に千葉すずさんの口から、“私の為に御免なさい。”とでも一言発言して欲しかったのです。
そして、本当に後輩の為を思われての今回の行動だったら、今回の訴訟は、シドニーオリンピックの後にして欲しかったものです。
(なにしろ、千葉すずさんの提訴騒動の前は、選考された女子選手達は、とても良い雰囲気で纏まっているように私には感じておりました。
なのに、今回のゴタゴタの為に、その選手たちの心の片隅に暗い影が出来てしまったのではないでしょうか?)
更に付け加えますと、柔道の「柔ちゃん」こと田村亮子さんは“オリンピックを楽しんで来ます。”と言ってアトランタオリンピックへの飛行機に乗り込んで行きました。
そして、その結果は、彼女にとっても私達にとっても残念な結果となりました。
でも、私はちっとも残念でありませんでした。
“オリンピックを楽しんで来ます。”なんていう選手は負けてしまえば良いと思っていましたから。
しかし、田村亮子さんと千葉すずさんの違いは、アトランタ以降、田村亮子さんは、“オリンピックを楽しんできます。”の類の発言を決してなさいません。
オリンピックで圧勝出来る力を示された後、次回或いはその後に田村亮子さんが、“オリンピックを楽しんで来ます。”と言ってくれたらいいなあと思っております。
更に、不思議に思いますのは、千葉すずさんのオリンピック出場選手選考問題よりも、そのオリンピックの水泳競技での水着の方が問題なのではないでしょうか?
水の抵抗を極力抑える為、水着表面状態をサメの肌に近付け、且つ、筋肉の活動をより有効にする工夫が施された水着で全身を被い競技する事が許されてゆくなら、それこそどんどんオリンピックを楽しむ等言っていられなくなるでしょう。
それでは、まるで、水着メーカーのオリンピック競技になってしまうでしょう。
(スキーは既にスキーメーカーのオリンピックだと言われるかもしれませんが。)
更に不思議な事には、ドーピング問題を何故もっと真剣に討議しないのでしょうか?
現在のドーピング・テスト技術では、検出できない薬もあるとの事ですが、テレビでは、或る競馬界の方は、“競馬界では、優勝した馬の血液は保存して置き、検出出来なかった薬でもいつの日か、検出する技術が確立されたら、その保存しておいた血液を再検査して、若しそこでドーピング薬が検出されたら、過去に遡って、その際の優勝を取り消すシステムになっているのに、何故オリンピックでは、同様な方式が採用されていないのか?”と訝っておられました。
私も、何故なのかとても不思議です。
何故、これ等の事にマスコミは声を上げないのでしょうか?